ヘッドライト早期点灯研究所

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2018年04月09日

なぜ、おもいやりライトは「ソーシャルアクション」なのか?

「ヘッドライト早期点灯研究所」は、早期点灯の実施に役立つ情報の調査を行うチームです。今回はおもいやりライトが続けている、「点灯呼びかけアクション」に着目。2017年のいい点灯の日に「おもいやりライト in ⻑崎」を開催頂いた、⻑崎⼤学 ⼤学教育イノベーションセンター 准教授の成瀬尚志先生にソーシャルアクションの視点で見た「おもいやりライト」について、調査をしてもらいました。

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「活動が若い人につながっていっていると思えたところがよかったのではないでしょうか」

2017年11月10日、長崎大学の東門前で「おもいやりライトin長崎」を開催した。老若男女約50名が集まったこのイベントも、最初は知らない人同士であったので、参加者の表情も硬かったが、終了時には満足な笑顔であふれていた。

冒頭の言葉は、準備段階から熱心にサポートしてくださった長崎市市民生活部安全安心課の手島秀智さんの言葉である。これまで、年配の方が中心であった交通安全の取組みに、学生などの若者も参加する形で「おもいやりライトin長崎」は開催された。

「ソーシャルアクション」としてのおもいやりライト

夕方の16時から18時までの間が一番交通事故が多い時間帯である。その時間帯にパネルを使ってヘッドライトの点灯を促すのがおもいやりライト運動の「点灯アクション」である。

この点灯アクションは、社会課題の解決につながっていると同時に、実際にやってみると楽しいものである。こうした「楽しみながら社会課題の解決を目指す取組み」を「ソーシャルアクション※」と名づけ、私はその研究に取組んでいる。私はソーシャルアクション研究の一環としてこの点灯アクションを実践してみた。

※「ソーシャルアクション」は社会福祉の文脈で以前から使われてきた用語であるが、ここではそれとは異なる意味で用いている。

「こんなに楽しいとは思わなかった」

これは参加者のほとんどから聞かれた感想である。次々とやってくる車に対して、パネルだけを用いてライトの点灯を促す。実に単純であるが、点灯してもらえるととても嬉しくなるのである。すべての車が点灯してくれるわけではないので、簡単すぎないところも達成感につながった。

ここにはある種の「ゲーム性」のようなものをみてとれるが、参加者がゲーム感覚だけで楽しんでいたのかというとそうではない。もし、本当にゲーム感覚なら、自分の目の前を通る車がすでにライトをつけていれば、よくは思わないはずである。しかし、もちろん誰もそんな風には思わない。当然(自分のアクションの成果ではないにもかかわらず)「やった!」と思うのである。これは、点灯アクションが個人的な楽しみではないことの表れであるだろう。

2017年11⽉10⽇(⾦) 16:10~ ⻑崎⼤学⽂教キャンパスにて開催された。

「社会課題」を通したコミュニケーション

おもいやりライトを実践してみて感じたのは、この活動は社会課題の解決を目指した取組みであると同時に、「コミュニケーション」なのだということだ。

パネルをもって点灯を促す参加者と、やってくる車のドライバーの間には絶妙な距離感がある。窓が閉まっているので言葉は届かないが、表情を通したコミュニケーションは可能なのである。

信号待ちや渋滞中の車のドライバーは最初、パネルを持った人たちを見て、何をしているのだろうと疑問に思う。しかし、何かを訴えかけているようだ。なんとなく「ライトをつけて!ってことなのかな?」と思い、(おそるおそる)ライトをつけてみると、パネルを持っている人たちが、とても喜ぶので「ああ、やっぱりライトのことだったんだ!」と安堵とともに笑顔になる。これが現場で起こっていることなのだ。

もちろん、ドライバーの笑顔を見て参加者も笑顔になる。その笑顔を見てさらにまたドライバーも笑顔になる。両者の間で「早期点灯」という社会課題を通したコミュニケーションが生まれ、それが双方に笑顔を生んだのだ。

パネルをもってヘッドライトの点灯を促す参加者と、やってくる車のドライバーの間には窓が閉まっているので言葉は届かないが、表情を通したコミュニケーションは可能。

「参加者」が「スタッフ」にシフトする

通常のイベントでは、事前にイベントの準備をする側のスタッフと、スタッフが提供するものを当日に享受する参加者とに分けられる。その点からすると、今回の点灯アクションを事前に準備してきた「スタッフ」と言えるのは、私を含めて数名だけであり、点灯アクションに参加した50名のほとんどは当日に集まっただけの「参加者」であった。

しかし、点灯アクションが始まると、面白い構図が生じた。交通量の多い道路で実施していたため、車は次から次へとやってくる。そのほとんどがヘッドライトを点灯していない車であった。そうした車はまさに点灯アクションがターゲットとしている車であり、その車に対してなんとかして点灯してもらおうと参加者はパネルを使ってアピールをする。この場面を見ていると、先ほどまで「当日来ただけの参加者」がおもいやりライトの「スタッフ」となり、前を通過する車が「参加者」になっているように見えたのだ。

次から次へと「参加者(であるドライバー)」がやって来ると同時に、当日来ただけの「参加者」が「スタッフ」へとシフトし、主体的にアクションをするというのは、通常のイベントではなかなか見られない構図ではないだろうか。

道路上でアクションをすると、パネルを持った「参加者」がおもいやりライトの「スタッフ」となり、前を通過する車が「参加者」になっているように見える。

長崎は「おもいやりライト」発祥の地

「おそらくこうした活動は長崎が全国で初めてではないでしょうか」
こう話すのは、手島さん同様、今回の点灯アクションに積極的に協力して下さった、長崎県浦上警察署の本田浩之課長である。「こうした活動」というのは、われわれが実施した「おもいやりライトin長崎」ではなく、長崎で以前から実施されてきた同様の取組みのことである。鈴鹿8時間耐久ロードレースでの「ライトオンボード」のマークをモチーフにした、「早めの点灯」を意味するシンボルマークを作り、早期点灯を呼びかける活動が長崎ではなんと約20年も前から実施されていたのである。今回、おもいやりライトを長崎で実現できたのも、こうした伝統が地盤にあったからであろう。

(右下)長崎県浦上警察署 本田浩之課長(取材日 2018年2月2日現在)

誰とやるか?

このように、長崎ではこれまでも点灯アクションのような取組みは実施されてきた。しかし、他の交通安全の取組みと同様、参加者は高齢者に限られていた。若い人たちにもこうした活動に興味を示してほしいという思いが、手島さんなどにはあった。

交通安全だけに限らず、社会課題というものは、個人のアクションだけでは解決できず、より多くの人々に関わってもらう必要がある。さらに、単に人数だけの問題ではなく、次世代を担う、若い世代自身が関心を持つことが重要である。

このことは、課題解決へのアプローチとして重要であるだけでなく、参加者のモチベーションにも関わってくる。つまり、「何をするか」だけでなく「誰とするか」が実のところ参加者のやりがいに大きく関わっているのである。

これは交通安全に特化した問題ではなく、社会課題に向けた取組み一般について言えることである。冒頭の手島さんの言葉は、この「誰とやるか」ということが、社会課題の解決にとって重要な要素であることを示唆している。

私がソーシャルアクションに関心を持ったのは、楽しさベースで活動がどんどん広がっていく点に可能性を感じたからである。多くの人を巻き込んでいくことで、この「誰とやるか」という問題もクリアできるのではないかと考えている。

長崎市市民生活部安全安心課 (左上)重富範孝課長 (右上)交通安全担当 手島秀智さん (左下)松下祐輔さん(取材日 2018年2月2日現在)

「楽しさ」と「社会課題の解決」とを結びつけるものは?

われわれはこれまで、(暗黙のうちに)「楽しさ」と「社会課題の解決」とを二者択一で捉えてきたのではないだろうか。楽しい行為は社会課題の解決につながることはなく、また、社会課題の解決につながる行為は楽しいものではない、と。しかし、ある行為が、楽しく、かつ、社会課題の解決につながるのなら、誰しもそうした行為をしたいと思うのではではないだろうか。まさにそうした行為が存在するのだ、ということに今回の「おもいやりライトin長崎」を実施してみて改めて気づくことができた。

しかし、誰もがおもいやりライトを楽しいと思うわけではない。「そんなことめんどくさい」や「自分がしなくてもよいだろう」などと思う人も多いはずである。そう思う人にとって、おもいやりライトは「楽しさ」と「社会課題の解決」を同時に実現するアクション(行為)には見えないのである。

このように、同じアクションでも、人によって両者を結びつけて見る人とそうでない人とがいる。では、その違いはどこから来るのか?「楽しさ」と「社会課題の解決」を結びつけるものは何なのか?

参加者がおもいやりライトに取組んでいたとき、その名の通り、その一帯はおもいやりであふれていた。自分自身の日常に直接関係するわけではない社会課題に参加者を向かわせたのは、このおもいやりだったのではないか。まさにそうした参加者の中のおもいやりこそが、楽しさと社会課題とを結びつけていたのではないだろうか。

点灯アクションは、多様な年齢の人が集まったが、そうしたおもいやりという点はみんなに共通していた。その共通点があったからこそ、初めて会った知らない人同士で楽しく取組めたのではないだろうか。


現在、われわれの社会は様々な課題を抱えている。しかしながら、それらの課題は楽しみながら取組むことが可能なのかもしれない。もしそうなら、多くの人を巻き込んでいくことができ、最初は小さなアクションでも徐々に大きくすることができるだろう。「楽しみながら社会課題の解決を目指せる」ということにわれわれが気づくことには計り知れない価値があるのである。

実のところ、こうしたソーシャルアクション的なことはすでに数多く存在している。しかし、それをわれわれが「ソーシャルアクションだ」とはっきりと認識することでさらに多くのソーシャルアクションを実現させることができるはずである。

「楽しみながら社会課題の解決を目指せる」
このことにわれわれが気づき、意識的に実践する人が増えていけば、「おもいやりのライト」が照らす未来はもっと明るいものになるのではないだろうか。

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