ヘッドライト早期点灯研究所

調査・実験

2019年03月15日

おもいやりライトは「はじまり」をつくりだす

「ヘッドライト早期点灯研究所」は、早期点灯の実施に役立つ情報の調査を行うチームです。今回はおもいやりライトが続けている、「点灯呼びかけアクション」に着目。毎月10日の点灯の日で一緒にアクションをしている、「おもいやりライト in ⻑崎」の⻑崎⼤学 ⼤学教育イノベーションセンター 准教授の成瀬尚志先生に1年間活動を続けたことで見えてきたことをレポート頂きました。

「はじまり」は飲み会から

 2017年の秋におもいやりライト点灯呼びかけアクションin長崎を実施した。そのときに参加した学生たちと2018年の4月に飲みに行ったときのことである。学生が「(おもいやりライトを)月に1回ぐらいやりたいんすよねー」と言ってきた。
 楽しみながら社会課題の解決を目指す取組みを「ソーシャルアクション」と名づけ、私がその研究に取組んでいたことから実際に継続してやってみたいという気持ちもあったが、その学生たちと大学で会う機会がなかったため、彼らと月に1回「会う口実」ができるのはよいかなと思い、開催することにした。
 2018年5月10日から開始し、最終回となった2019年2月20日まで計10ヶ月連続で毎月実施した。点灯率は活動当初と比べて段違いに高くなっていた。点灯アクションをやっているとわかるのだが、ドライバーはパネルを持っているわれわれが何をしているのか最初はわからない。ライトをつけてみるとわれわれが喜ぶので、ああそれでよかったのかと気づく。しかし、この活動を知っているドライバーは、パネルを少し離れたところで見かけた段階で点灯してくれる。活動を知ってくれているかどうかはどの時点で点灯してくれるかでおおよそわかるのだ。その点で言うと、最終回となった2月の点灯アクションでは明らかに認知度が高まったことが実感できた。毎回ほぼ同じ場所で実施していたことが功を奏したのかもしれない。こうした成果を生み出したのも、もとをたどれば飲み会での学生のたわいもない一言であった。

誘わないとはじまらない

 実際の所、点灯アクションにはそれほどたくさんの人が参加したわけではない。しかし、多様な人が集まった。長崎大学の職員さんや噂を聞きつけた自動車学校の先生まで多種多様な人に参加してもらえた。こちらから声をかけた場合以外にも、SNSの投稿を見て来てくれた人や、その場で誘って参加してくれた人など多様である。特に近隣の女子校の下校時の生徒がたくさん参加してくれた。学生が下校中の生徒に声をかけて参加を呼びかけるのだが、中には「わたし今回で2回目です!」と言ってくれた生徒もいた。月に一回のこの活動を下校時に見て興味を持ってくれていたのかもしれないが、自分から「参加させてください」とはなかなか言えないものである。また、誘われたとしても参加するのには勇気がいっただろう。声をかけるほうの学生も勇気がいっただろうが、お互いが垣根を一歩越えたことで、一緒に楽しく点灯アクションをすることができた。
 その中でも印象深いことがある。中心となって実施していた学生は5人いたのだが、彼らは毎回違う友達を連れてきていた。最初はがんばって誘っているなあという程度の印象しかなかったが、毎回誰かを実際に連れてくるのはなかなか大変なことである。よく見ていると、彼らは直前に友達に手当たり次第電話しているのである。「今日お前夕方ひま?ちょっと東門前来てくれん?」とだいたいこんな感じである。ほとんど断られるのだがそれでもめげずに、電話をかけまくり、そこでようやく「新たな1名」が生まれていたのである。そしてその「新たな1名」は間違いなく、最後まで残って点灯アクションを楽しんでくれた。その「新たな1名」とのたわいもない会話も点灯アクションの楽しさの1つであった。
 誰しも興味のあることには積極的になるが、興味のないことに時間を割いたりしようとは思わない。しかし、興味のあることにしか手を伸ばさないなら、われわれの興味は広がりを見せないだろう。彼らの電話での勧誘はそうした興味や関心の壁を取り払う貴重な契機であったのだ。そして、興味のあるなしにかかわらず、参加してくれた学生に共通して言えるのは、おもいやりライトのために「時間をつくった」ということである。断る理由はいくらでもあったはずであるが、何とか時間を工面して参加した以上、楽しまないともったいない。参加してくれた学生が楽しんでくれたのはある意味当然であった。

「はじまり」が生まれる期待

 点灯アクションはほとんど大学の東門前で実施していた。長崎大学の学生だけでなく、先述の女子校の生徒の行き来も多かった。しかし、事情で2回だけ別の場所で実施したことがある。東門から近いものの、学生たちの往来はほとんどない場所であった。交通量はいつもの場所とほとんどかわらないため、おもいやりライトを実施する上ではまったく問題がない。しかし、何かいつもと違う感じがした。
 いつもの東門前では多くの人に見られていた。とはいえ、ほとんどの場合、「あれ何やってるんだろう?」という不思議そうな目で見られるだけなのだが、その中から声をかけてくれる人がいたり、誘えば参加してくれる人もいた。実際そうした人はごくごく一部なのであるが、とはいえ「そうした人がいるかも」という「予感」がわくわく感につながっていたのだ。
 点灯アクションは、パネルを持って呼びかける参加者とやってくる車があれば成立する。そして、呼びかけてヘッドライトをつけてもらえれば楽しい。しかし、実際にやっているときの楽しさはそれだけで完結するものではなかった。われわれのアクションを見かけた人にも何かがはじまるかもしれない、という期待感を楽しんでいたのだ。学生がなんとかして毎回友達を誘っていたのも、そうした期待感を自分たちが楽しむためだったのではないかということに後から気づいた。彼らは最初からおもいやりライトの楽しみ方を知っていたのだ。


通りがかりの人も参加できるように作った「フリーパネル」

「はじまり」から生まれたこと

 点灯アクションを10ヶ月継続させたことで認知度が高まり点灯率が上昇した。これは点灯アクションから生み出されたことである。しかし、それだけではない。「先生この前東門の前でパネルもって何かやってましたよね」「Facebookでいつもライトオンの活動みてますよ」こうした会話もすべて点灯アクションから生み出されたものである。
 これらは非常にたわいもないものである。しかし、もし点灯アクションを実施していなかったなら、それらの会話は生み出されず、単にすれ違っただけで終わっていたかもしれない。また「この前友達とご飯いったらそこの店員さんが何かみたことあるなあと思ったらおもいやりライトにいつも来てる人だったんです」といった出会いが生まれたりもした。街中で知り合いに会うことは(長崎では)よくあることだが、その出会いが「まさか!」という偶然に思えるのは、ソーシャルアクションという特殊な状況での出会いがはじまりとなっているからだろう。自分自身がおもいやりライトに参加したということがはじまりとなり、街での出会いが1つのストーリーとして意味づけされているのだ。

リコー社への訪問

 大学の近くにコピー機で有名なリコー社の長崎本社がある。そのため営業車が点灯呼びかけアクションの際に頻繁に通った。リコー社の車はいつもよく点灯してくれていたのでよく話題にしていた。そこで、最終回の2月20日の点灯アクションの直前に訪問することにした。
 支社長や営業部長も来られ、おもいやりライト運動や交通安全について話し合うことができた。リコー社は全国でも営業車の保有台数が非常に多く、薄暮時の交通安全にも積極的に取組まれているとのことだ。リコー社の方々はわれわれの訪問に非常に感激されていた。何か仕事のサポートをしたわけではないが、「交通安全」という社会課題を通してこうした交流が生まれたことはソーシャルアクションとしてのおもいやりライトならではであろう。
 その後、われわれはリコー社を後にし、いつもの場所で最後の点灯アクションを実施した。そしてみんなで写真を撮り、解散直前のタイミングで、先ほどお会いしたリコー社の方が2人やって来られた。われわれの点灯アクションを見に来られたのかと思ったが、プレゼントを持ってこられたのだ。そのプレゼントというのは、なんと「おもいやりライトトートバッグ」であった。訪問時にわれわれが持って行ったパネルの写真から作られたとのことで、たった30分ほどで作られたというのはさすがリコー社である。毎月の「点灯アクション」からこうしたことにつながるとは予想もしていなかった。

「はじまり」との関係で考える

 われわれがなんらかの課題解決を目指す場合、目標やゴールがまず設定される。そして、そのゴールに向かって、どのようなルートや方法でたどり着くかを考える。ゴールまでの距離が縮まっていなければ改善が求められ、うまく進んでいれば評価される。こうした「解決志向」の発想では、アクションの価値はゴールとの関係によって与えられる。「うまくいった」や「失敗した」というのもそうであり、ゴールという目的に対して、アクションは手段でしかない。  一方、ソーシャルアクションで重視されるのは、ゴールではなく、「はじまり」である。そして、そのはじまりとの関係でものごとをとらえるのだ(たとえ、そのはじまりとしてのアクションが目的達成や課題解決を目指して行なわれたものだとしてもである)。これはソーシャルアクションにおけるアクションが目的達成のための手段ではないことを意味している。

「はじまり」からどこまで遠くに行けるか?

 おもいやりライト長崎チームでは3月に、いつも点灯アクションを実施していた長大東門前から出発し、雲仙まで歩いて行き、雲仙地獄の付近でおもいやりライトを実施することにした。その旅の途中で何が起こるか、どのような人に出会えるかなど期待が膨らむ。
 ソーシャルアクションでははじまりを重視する。1つの起点から多様な未来が生み出されることを期待するのである。どんなことが起こるのかわからないからこそわくわくする。こうしたソーシャルアクション的な枠組みで考えると、その起点から遠くに行けば行くほどその喜びは格別なものとなる。ソーシャルアクションではアクションを評価するためのゴールが決まっていないためどこまでも遠くに行けるのだ。
 点灯呼びかけアクションをはじめたときは、まさか雲仙まで歩いて行くことになるとは予想もしていなかった。しかし、この雲仙への旅はおもいやりライトが「はじまり」となり、そのはじまりがなければ間違いなく生み出されなかったものである。ここまで遠くにこれたのだ。


2019年3月のおもいやりライトは、長崎市から雲仙まで歩いて点灯呼びかけアクション!

おもいやりライトから「はじまり」をつくろう!

 おもいやりライトは交通安全を目指した取組みである。しかしながら、交通安全に資するアクションのみに価値を置くわけではない。そこからはじまった交流や出会いにも価値を見いだせる点にこそ、ソーシャルアクションとしてのおもいやりライトの醍醐味がある。
 失敗・成功という「解決思考」的な発想から考えるとなかなか一歩を踏み出せないかもしれないが、「はじまり」に重きをおくソーシャルアクション的なスタンスなら、その一歩を踏み出しやすくなるかもしれない。
 おもいやりライトははじまりをつくる。その先に生み出される多様な未来ははじまりがなければ生まれない。そして、その生み出される未来は個人個人によって異なる。ぜひみなさん自身の未来を生み出すためにも点灯アクションをはじめてみてはいかがだろうか。

この記事へのコメント

この記事へのコメントはこちらから

いかがでしたか?もしよければシェアして早期点灯の話題を広めてみませんか?

おすすめ記事