ヘッドライト早期点灯研究所

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2017年03月23日

自動車メーカーレポート:日産自動車株式会社 内外装技術開発部 中垣仁志さんに聞く「見られるヘッドライト」への思い

 

「ヘッドライト早期点灯研究所」は、早期点灯の実施に役立つ情報の調査を行うチームです。今回は、自動車メーカーとして「おもいやりライト」のためにどんな工夫をしているのか、日産自動車で30年もヘッドライト開発一筋の中垣仁志さんにお話をうかがいました。

しっかり照らす機能を磨き上げれば、周囲からの被視認性も向上する

研究所(山本):
最近、ヘッドライトの進化がめざましく感じます。光源もハロゲンバルブが当たり前だった時代からキセノン、LED、そしてレーザーと、どんどん新しいテクノロジーが生まれています。その一方で、「おもいやりライト」の目指す、周囲の人やクルマに認識されるための機能をメーカーがアピールしているという話はあまり見かけない気がします。実際の開発現場では、どのように認識されているのでしょうか。

日産(中垣):
まず、ご理解いただきたいのはヘッドライトの機能というのは法規やルールによって決められている要素が少なくないということです。そのため自動車メーカーとして出来る範囲というのも限られます。法規については世界的に共通化が進んでいますから、特定のメーカーが勝手なこともできませんし、ある国だけで通用するルールというのも難しいのです。

そうした法規の中には、ヘッドライトの被視認性(周囲から認識される性能)についても含まれています。基本的な話をすればヘッドライトが照らしている範囲であれば人やクルマは認識できますから、照射性能を磨けば、被視認性も向上することになります。逆にいうと、目立たせるために法規以上に明るくすることはできないのです。

早期点灯したくなる、かっこいいヘッドライトが増えている

研究所(山本):
つまり、被視認性については法規によって決められているために伸びしろが少ないということでしょうか。

日産(中垣):
そういうわけではありません。LEDの普及によってヘッドライトのデザイン性は上がっています。とくにクリアランスランプ(車幅灯、スモールライト)の自由度は高くなり、開発側のモチベーションも上がっています。結果としてクルマの前方におけるライトの占める面積が増えていますし、デザイン性の向上はヘッドライトを目立たせるという意味で大きな価値になっていると考えます。つまり、被視認性の向上につながるというわけです。

ちょっと話は変わりますが、ヘッドライトを早期点灯することが「かっこわるい」という認識をしているドライバーも少なくないと聞いています。たしかに、クルマの電装系が弱かった時代にはヘッドライトを点けるとバッテリーがアガりやすく、できるだけ点灯せずに走ることが必要だった時代もありました。
しかし、LEDが増えていて消費電力が下がってきていますし、なによりも安全のためにはヘッドライトの早期点灯は重要です。その点で、ドライバーが早期点灯したくなるような、かっこいいヘッドライトのデザインというのは「おもいやりライト」につながる要素だと思っています。

雨天時に傘をさした歩行者は死角が増えてしまう

研究所(山本):
「おもいやりライト」といえば、日産自動車の最新モデルには「おもいやりライト」機能付きのオートライトシステムが備わっています。このシステムは、従来のオートライトとはどのように異なるのでしょうか。

日産(中垣):
従来のオートライトは、夜間のつけ忘れを防止することで安全につなげるという狙いがありました。我々が追加した「おもいやりライト」機能とは、自車を周辺に気付かれやすくするという被視認性を考慮した機能を示しています。

具体的には、照度センサーの精度を上げることで、危険度が増すといわれている夕暮れ時からヘッドライトを点灯するようにしています。もうひとつ、ワイパーの作動に連動してヘッドライトを点ける機能も持たせています。雨天時というのは歩行者が傘をさしているために視線が足元に寄ってしまい周辺状況を認識しづらくなっています。雨天時にヘッドライトを点灯して歩行者の足元を照らすことで、クルマを認識しやすくなると考えたからです。

ドライバーの意識向上に応えるヘッドライトを生み出したい

研究所(山本):
被視認性の向上という点では、状況に応じて適切なタイミングでヘッドライトを点灯させる技術が「おもいやり」につながるということですね。

日産(中垣):
そうです。基本的にヘッドライトを点灯するということは自車のアピールにつながりますし、被視認性を上げるための有効な手段です。そのために我々は様々な技術を開発しているのです。私自身、自動車のヘッドライト開発に関わって30年ですが、他社のエンジニアとコミュニケーションする機会も多くあります。ヘッドライト(の早期点灯)によって安全につなげるというのは、すべてのエンジニアの願いでもあります。

ただし、そうした技術を適切にご利用いただくためには、早期点灯が恥ずかしいというかつての認識ではなく、「早期点灯が安全につながる」という意識をユーザーの方にも持っていただくことが重要だとも考えます。その点において「おもいやりライト」活動には期待しています。我々としては使いやすく、そして積極的に点けたくなるようなヘッドライトを目指して、日々開発を進めています。


<ヘッドライト早期点灯研究所 聞き手>
●山本晋也
自動車専門誌の編集長を経て、フリーランスのライターに転身。2005年からはじめた個人ブログ「クルマのミライ」は、ほぼ毎日更新している。自動車コミュニケータを自称、メーカーとユーザーのつなぎ手となるべく日々精進している。

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